katonobo’s blog

プログラミング中心の雑記ブログ

ビットコインをめぐる冒険 :2

前回のお話はこちら 

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彼女に連れられ、僕は古い車の後部座席に乗った。今時珍しいエンジン車だった。

「通信機能がある車だと所在が掴まれる可能性があります。この車は通信機能がありません。」タカナワは運転しながら言った。

所在を掴むって?通信のセキュリティに侵入しないとそんなことできるはずがない。そんなこと可能なのか?

「今は周辺の安全は確保されていますので安心してください」

彼女の余裕のある発言から、彼女以外にも何人かがどこかにいるのだろう。

あんな大きな爆発があった後でも彼女は全く動揺をしていなかった。

しばらくして、人気のない工業跡地のような所についた。そして、そのまま大きな工場の車庫に入った。

「ここからはワームホールで目的地に向かいます。この施設は世間には不公開となっています。」

ワームホールはエアーシューターのような大きな乗り物で、ものすごいスピードで移動できる装置だ。政府が重要な交通機関として管理しているが、一般人は乗ることができない。ましてや、こんな秘密にされたものが存在しているなんて夢にも思わない。

「こんなものがあるなんて…。これって。」僕は驚きが隠せなかった。

「本部に着きましたら私の上司が全て話すと思います。」タカナワは僕が色々質問しようとするのを遮って言った。

どこに向かったのかはわからない。おそらく相当遠くまで移動したはずだ。

「本部」と呼ばれる建物に到着すると、そこに一人の男性が待っていた。

「シュウ君、こんにちは。」その男は、タカナワの上司で、ワタナベと名乗った。

「いきなりで驚いただろう。ごめんね」彼は物腰が柔らかかった。

ワタナベに案内され、応接間のようなところに通された。そこで緑茶を出された。タカナワは僕の後ろの壁に立っている。

「シュウ君、タカナワからはどこまで話を聞いているかな?」ワタナベは僕がお茶を一口飲むのを待ってから話かけてきた。

「ほとんど何も聞いてません。僕がサトシナカモトの子供だって言われただけです。」

 

「なるほど。シュウ君。落ち着いて聞いてくれ。君はサトシナカモトの子供で、君の命を狙っている組織がいる。そして、僕たちは君を守るために君を保護した。」ワタナベはゆっくりはっきりと喋った。そういう癖なんだろう。

 

「僕には父と母がいます。それにサトシナカモトはもう相当昔の人物でしょう?繋がりません。」僕は何かの間違いだと思っていた。誰かと間違えて僕は連れてこられたのだと。

「そうだね。そう思うのは無理もない。だけど、聞いてほしい。これは僕たちの組織がなぜ生まれたのかや、なぜ君が命を狙われているかにも大きく関係している」彼は続けた。

「サトシナカモトは、ビットコインを考案した人物だ。正体は明かされず、ビットコインが生まれてからずっと謎の人物だと言われていた。ところが、2025年に、サトシナカモトが保有するビットコイン30万枚が彼のウォレットから移動された。そして、そのビットコインを原資に、我々P2P財団が創設された。彼の意思を代弁する組織だ。私たちは幅広い分野に投資を行い、運営している。P2P財団は、世界一の資産を保有している財団だ。その財産はほとんどの国の財力を上回っている。ここまでは大丈夫かな?」

 

ワタナベは話を切った。僕が理解が追いついているか確かめたのだろう。

 

「実は、つい2日前、サトシナカモトが死んだ。そう、彼は実は今まで生きていたんだ。」

 

「え?」僕は驚いた。サトシナカモトが生きていた?そしたら彼はもう100歳はとうに超えていたはずだ。

 

「我々も彼の死に立ち会った訳ではない。ただ、わかるんだよ。」ワタナベは言った。

「彼のビットコイン70万枚が、管理する口座から、丸々全て別の口座に移ったんだ。そしてその口座が、君の口座なんだよ。」

 

僕の口座?僕はそんな口座を作った覚えはない。

 

「生体ハッシュは知っているよね?そう、その人間のDNA情報を元に作られる暗号だ。そしてその技術に基づいて作れたウォレットが、今回の君の口座なんだ。だから、おそらく君が生まれた時にこの口座は作られた。そして、サトシナカモトは、生前の遺言で、自分が死んだ時に、自分の子供にビットコインを譲るとスマートコントラクトに残しており、彼の死をトリガーに、自動的に執行されたんだ。」

 

全く知らない話だった。じゃあ僕の両親は一体誰だったんだ。

 

「そして、この口座を解除するには、君が生きた状態で、ある決まった端末からアクセスし鍵を解除する必要があるんだ。」ワタナベは続けた。

 

「で、でも、そしたらなんで僕を殺そうとする人がいるんですか?僕を殺したらそのビットコインは永久に手に入らなくなってしまうじゃないですか。」

 

「そう。敵の狙いはまさにそれなんだ。彼らは、君を殺してそのビットコインを君もろとも永久に消し去ろうとしているんだ。彼らとは、サトシナカモト、我々P2P財団に次ぐビットコインの保有量を誇るBitMars社だ。」ワタナベが言った。

 

「君を殺せば、ビットコインの全体量は実質的には減る。そしてビットコインを巡る力関係も大きく変動する。今までは、サトシナカモトと我々P2P財団によるシェアが圧倒的だったが、もし君のビットコインがなくなれば、力関係はほぼ拮抗する形になる。だから、君を何がなんでも殺したがってる。」

 

なんとも絶望的な話のように思えた。これからずっと命を狙われるなんて…。

 

続く

 

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